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名古屋地方裁判所 昭和33年(ワ)1842号 判決

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「一、被告株式会社ナゴヤ洋服は、原告に対し、別紙目録記載の第二の建物を収去して同目録記載の第一の土地を明渡し、かつ、右土地につき一ケ月一坪あたり、昭和二十七年十一月七日から昭和二十九年十二月三十一日までは金二百円、昭和三十年一月一日から昭和三十一年十二月三十一日までは金二百五十円、昭和三十二年一月一日から右土地明渡済みまでは金三百五十円の各割合による金員を支払え。二、被告中川佐市は、原告に対し、同目録記載の第二の建物より退去して同目録記載の第一の土地を明渡せ。三、被告中川佐市及び同北野磯は、原告に対し連帯して、第一項記載の金員と同額の金員を支払え。四、被告吉田春乃は、原告に対し、同目録記載の第三の建物部分より退去してその敷地部分を明渡せ。五、訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一、(一) 別紙目録記載の第一の土地(以下単に第一の土地という)は、原告の所有である。

(二) 被告株式会社ナゴヤ洋服(以下単に被告会社という)は、もと株式会社福屋の商号であつたが、昭和二十三年二月二十八日商号変更し、同年三月一日その旨の登記を経由したものである。

二、原告の父訴外安藤忠太郎は、原告が戦時中に応召した後第一の土地を管理していたものであるが、自身が従来第一の土地の隣地において長らく既製服の小売業を営んでいたので、原告復員後は原告にも第一の土地上の店舗を建設させ同種営業を営ませようと計画していたため、他よりの賃借の申込を拒絶し続けていたところ、昭和二十一年五月頃、訴外名古屋既製服商業協同組合(以下単に訴外組合という)より、組合の負債を弁済するとともに組合員の生活を維持するために組合員で株式会社福屋を設立して営業したいから短期間第一の土地を賃借したい旨の申込を受けたので、忠太郎は、当時同組合員であつたうえ以前その組合長を勤めたこともあつた関係上、原告の代理人として、訴外組合に対して第一の土地を一時使用の目的で賃貸した。そこで、訴外組合は、その組合員によつて設立された株式会社福屋に対して第一の土地を転貸し、同会社は、その地上に建坪三、四十坪のバラツク建店舗を所有して、この店舗で既製服の販売を営んでいた。

三、ところが、昭和二十二年十一月頃、訴外組合は事実上解散し、また株式会社福屋も解散する予定であつたが、同会社に若干の負債があつたので、その整理のためなお暫くの間残存せしめる必要上、当時訴外組合の副組合長でありかつ同会社の副社長でもあつた被告中川において同会社の営業を承継することになつた。そして、訴外組合の役員や被告中川は、前記忠太郎に対し、右の事情を告げて、第一の土地を被告中川に一時賃貸して貰いたい旨を懇請してきたので、同人は、原告の代理人として、訴外組合に対して賃貸した際と同様に短期臨時的という条件で被告中川に賃貸することとし、訴外組合との賃貸借を合意解除のうえ、昭和二十二年十一月六日、被告中川に対し、第一の土地を期間五ケ年に限つて賃貸したところ、被告北野は、同日、原告に対し、右賃貸借契約に基く被告中川の債務について連帯保証した。そこで、被告中川は、改めて株式会社福屋に対して第一の土地を転貸し、同会社において前記店舗建物を所有して営業を継続するに至つたが、同会社は、被告中川の個人会社の如きものとなり、商号を前記のように株式会社ナゴヤ洋服と変更し、また、前記店舗建物を別紙目録記載の第二の建物(以下単に第二の建物という)に増改築して所有し第一の土地を占有している。そして、被告会社は、被告中川を第二の建物に居住させ、被告中川は、この建物に居住して第一の土地を占有している。

四、被告吉田は、被告会社より第二の建物のうち別紙目録記載の第三の建物部分(以下単に第三の建物部分という)を賃借してこれに居住し、その敷地部分を占有している。

五、ところで、原告と被告中川との間の第一の土地についての賃貸借は、前記のように一時使用のために設定されたものであるから、昭和二十七年十一月五日限りその期間満了によつて終了したのであるが、被告中川は、原告に対して第一の土地を返還しないで、第二の建物に居住して不法に第一の土地を占有し続け、被告会社は、第二の建物を所有して不法に第一の土地を占有し続け、また被告吉田は、第三の建物部分に居住して不法にその敷地部分を占有し続けている。そして、被告中川及び被告会社は、不法に第一の土地を占有し続けることによつて原告の所有権を共同して侵害し、原告に対して第一の土地の適正地代相当の損害を蒙らせているところ、その一ケ月一坪あたりの適正地代額は、昭和二十七年十一月七日から昭和二十九年十二月三十一日までは金二百円、昭和三十年一月一日から昭和三十一年十二月三十一日までは金二百五十円、昭和三十二年一月一日以降は金三百五十円である。

六、よつて、原告は、被告会社に対しては、第二の建物を収去して第一の土地を明渡すことと、右土地につき一ケ月一坪あたり、賃貸借終了後の昭和二十七年十一月七日から昭和二十九年十二月三十一日までは金二百円、昭和三十年一月一日から昭和三十一年十二月三十一日までは金二百五十円、昭和三十二年一月一日から右土地明渡まで金三百五十円の各割合による損害金を支払うことを求め、被告中川に対しては、第二の建物より退去して第一の土地を明渡すことと、右被告会社と同額の損害金を支払うことを求め、被告北野に対しては、被告中川と連帯して同被告が支払うべき右損害金と同額の金員を支払うことを求め、被告吉田に対しては、第三の建物部分より退去してその敷地部分を明渡すことを求める。」

と述べた。

立証(省略)

被告会社、被告中川及び同北野の訴訟代理人は、主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として、

「一、原告主張の請求原因事実のうち、第一の土地が原告の所有であること、被告会社がもと株式会社福屋の商号であつたのを昭和二十三年二月二十八日商号変更し同年三月一日その旨の登記を経由したものであること、被告会社が第一の土地上に第二の建物を所有して第一の土地を占有していること、被告中川が第二の建物に居住して第一の土地を占有していることは認めるが、その余の事実を否認する。なお、被告北野が第一の土地の賃貸借に基く債務について連帯保証をしたことはあるが、それは、原告主張のような被告中川の債務についてではなく、被告会社の債務についてである。

二、(一) 原告より第一の土地を賃借したのは、被告会社であり、被告会社は、通常の建物所有の目的で賃借したものである。すなわち、被告会社は、その設立手続中の昭和二十一年四月頃原告より第一の土地を期間の定めなく賃借し、発起人代表の田辺音松名義で建築申請をして基礎コンクリート打、木造セメント瓦葺平屋建店舗兼事務所を建築したのであるが、この建物は多額の建築費用を要した本建築である。そして、被告会社は、昭和二十二年十一月六日に至つて、原告との間で、期間を一応五年としたが、その際当時としては莫大な金額である金五万円を前払地代として一時金で支払い、しかもその後、原告の要請により、一ケ月金五千円宛の地代を昭和二十七年十一月まで支払つてきたのであつて、その後は原告が地代の受領を拒絶したため供託しているのである。このようなことからも明らかなように、第一の土地の賃貸借は、原告と被告会社との間の通常の建物の所有を目的とするものであつて、借地法の適用を受けるので、その期間は二十年ということになり、未だ期間は満了していないのである。

(二) 仮に、第一の土地を賃借したのが被告会社でなく、原告主張のように被告中川であり、同被告がこれを被告会社に転貸しているものであるとしても、その賃貸借は、右と同様に通常の建物の所有を目的とするものであつて、借地法の適用を受けるので、その期間は二十年ということになり、未だ期間は満了していない。

三、被告中川は、被告会社より第二の建物を使用貸借して居住しているものである。」

と述べた。

立証(省略)

被告吉田の訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、

「一、原告主張の請求原因事実のうち、第一の土地が原告の所有であること、被告会社がもと株式会社福屋の商号であつたのを昭和二十三年二月二十八日商号変更し同年三月一日その旨の登記を経由したものであること、被告会社が第一の土地上に第二の建物を所有して第一の土地を占有していること、被告吉田が被告会社より第三の建物部分を賃借してこれに居住し、その敷地部分を占有していることは認めるが、その余の事実を否認する。

二、(一) 被告会社は、原告より第一の土地を通常の建物所有の目的で賃借して、その地上に第二の建物を所有し、被告吉田は、被告会社より第三の建物部分を賃借して居住しているものである。

(二) 仮に、原告主張のように第一の土地を賃借したのが被告中川であり、被告会社は、被告中川より第一の土地を転借してその地上に第二の建物を所有し、被告吉田に対して第三の建物部分を賃貸しているものであるとしても、原告と被告中川との間の第一の土地についての賃貸借は、一時使用のためのものではなく通常の建物の所有を目的とするものである。」

と述べた。

立証(省略)

(別紙)

目録

第一、名古屋市中区裏門前町一丁目一番の四十五

一、宅地 五十坪六合

同所同番の四十七

一、宅地 五十坪

(右二筆の仮換地は宅地七十九坪五勺)

のうち

第二の建物の敷地部分六十三坪五合

第二、名古屋市中区裏門前町一丁目一番地

家屋番号 第一番の三

一、木造瓦葺二階建店舗

建坪  四十八坪七合五勺

外二階 七坪五合

第三、右第二建物のうち

別紙見取図の(ハ)、(ニ)、(ホ)、(へ)、(ハ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分十六坪六合

(別紙)

〈省略〉

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